高まるラウドネス調整へのニーズ
ラウドネス調整が放送業界で採用になった頃、これは面倒な規格がやってきたものだ。正直そう感じていました。私はポストプロ出身なので、完パケ時に大きな作業が追加されて、当面は混乱するだろうとも考えていました。さらに、放送分野ですので編集済みだけではなく、生放送でもラウドネスは必須になります。リアルタイムにこの調整もやることになり、現場のミキサーの方には大きな負担だったと思います。
最近ポッドキャスト向けの音声コンテンツを作るワークフローに関わっていて、そこでも暗黙のラウドネスの「重圧」があります。公開したものの、「他のコンテンツに比べて音が小さいですね」と指摘されるそうで、これは明らかにラウドネス調整の不備が原因だと直感しました。
これまで私はTR-B32のラウドネス規格しか経験していませんでしたので、その延長でYouTube向けの-14LUFSターゲットも、レベルが違うだけだと簡単に考えていました。いつもながら浅はかで、恥ずかしい限りです。実際にこのターゲットラウドネスに合わせようとしたら、非常に難しいことが分かったのです。
ラウドネスの規格では、一般的にラウドネスレベルと呼ばれるIntegrated Loudnessに加えて、トゥルーピークがセットで指定されていると思います。このトゥルーピークが曲者なのです。DaVinci Resolveに用意されている自動調整機能を使っても、このトゥルーピークが邪魔をして本丸のラウドネスレベルが-14LUFSまで到達してくれないのです。ResolveのFairlightページの自動調整機能は簡易的なリニア調整だと理解していますが、先にトゥルーピークが-1dBTPに達してしまうと、そこでラウドネスレベルもレベル調整が完了されてしまうのです。このトゥルーピーク頭打ちをどうやって回避するかというと、この調整の前段階で手動で完成状態に近いミックスにしておく必要があります。TR-B32ではこのような下準備は不要だったので、YouTubeのラウドネス調整は手がかかると感じたのです。
その後、ミックスを繰り返すうちに勘所は見えてきたのですが、それは私に技術的なバックグラウンドがあったからで、一般ユーザーにこの手順をレクチャしても、すぐには理解してもらえません。YouTubeが幅広く普及している現在、この辺りの調整をどうやっているのか気になるところです。

そんなわけでミックスはユーザーの聴感上の感覚に任せて、その後のラウドネス調整だけを自動的に「いい感じに」調整するためのアプリを開発することにしたのです。このLouderアプリは、動画やオーディオクリップを読み込んで、ラウドネス調整されたWAVファイルを書き出すだけのシンプルなものです。調整項目も少なくて、YouTubeとTR-B32のプリセットを用意してあります。調整は2パスになっていて、1回目のパスでソースのレベル分布を見てから、2回目のパスで調整を加えます。調整方法は、リニアとダイナミックを選択できるので、事前に完成に近い状態までレベル調整ができているのであればリニア調整を優先して、ユーザーの意図をなるべく生かす調整が可能です。そうではない場合には、動的にターゲットレベルへ向けた調整を自動的に加えてくれます。
この便利な調整手法を私がゼロから構築するには、ノウハウが足りません。そこで利用しているのがFFmpegのラウドネス向けの機能です。先の説明の処理をまかなってくれます。FFmpegにはこれ以外にもいろいろ便利な機能があり、改めてそのパワフルさを実感した次第です。
このように、ラウドネス調整は今後放送分野以外でも必須になっていくに違いなく、それに向けた確実な対策を自分で持っておくことが欠かせないだろうと私は考えています。


