私はPremiere Proを熱心に使うユーザーではないのですが、身近なところでPremiere Proで書き出したクリップの色が編集時と変わってしまう。という問題があることを何度か耳にしていました。そこで、少し調査をしてみることにしました。
すぐに結果を求めたい方は、この次に書いた記事をご覧いただくと詳しい手順を解説しています。
何が問題なのか?
色が変わる。色が変になる。色の処理がおかしい。など色が想定通りに表示してくれない時の表現にもいろいろあって、時にはPremiere Proがおかしい!!!のように感情的になったクレームになるケースもあります。私の経験では、大抵感情的になるクレームには勘違いや理解不足が原因であることが大半です。まず、Premiere Proのどんな挙動を理由に、色が変わるというカラーシフト問題になっているのでしょうか。そのたりから調べてみました。
私が色の確認をする際に使用するいつものカラーチャートを、Premiere Proにインポートしてみました。実はその前段階で、カラーチャートのQT8bitBGRA形式の非圧縮ファイルを用意していたのですが、残念なことに読み込みができないことが判明。そこで、そのメディアファイルを作成した際に使用した元ファイルのTIFFファイルを今回は基準とすることにしました。読み込んだファイルをソースビューワで確認して、macOS付属のDigital Color Meterでピックしたところ、ファイル内のRGB値と同じ値が出ました。これは正確に再現しているという見方もできますが、Macの場合にはColorSyncを無視していることを示します。環境設定をを確認したところ、ColorSyncをOn/Offするための機能がありました。
環境設定>一般を開くとそこには、「ディスプレイのカラーマネジメント(GPUアクセラレーションが必要)」というチェックボックスがあり、私の環境ではチェックが入っていませんでした。チェックを入れて再度確認すると、色の鮮やかさが減少しているので、これによってRec709に向けたビューワの調整が加わったように感じました。念のため、BMDのUltraStudio 4Kを経由してEIZOのColorEdge CG318で見たところ、目視状では近い色になっていました。これ以外には、ビューワの色に関する有効な設定項目が見当たらなかったので、おそらくRec709のみのサポートだと私は理解しました。
ビューワの発色に関しては多少の注意点はあるものの、リファレンスモニターでは正確に色が出ているので、基本的な処理は問題がないようです。次に確認したのはファイルの出力です。一般的に使用されるProRes422HQ形式で書き出しました。それをmacOS標準のQuickTimeプレーヤーで確認すると、ビューワやリファレンスモニターとは似ていない未知の色に変わってしまっていました。なるほど、これのことを巷ではPremiere Proのカラーシフト問題と呼んでいるのだろうとわかったのです。
書き出したファイルの検証
書き出したファイルが編集時と色が変わってしまうと、安心して作業に専念できないものです。最悪の場合には、他のツールに切り替えようと考えてしまうかもしれません。ただ、QuickTimeプレーヤーは以前から「曰く付き」だったので、これのせいかもしれません。もう少し調べてみました。
書き出したファイルをDaVinci Resolveに読み込んでみました。ファイルのNCLCデータは1-1-1で、一般的なRec709であることを示しています。DaVinci Resolveではメタデータを信用せずに、Input Color SpaceをRec709/Gamma2.4に手動で変更してみました。すると、なんらカラーシフトは発生していないことがわかりました。だんだんと問題の全貌が見えてきました。原因はNCLCデータとそれを反映しているQuickTimeプレーヤーなのでしょう。最近のQuickTimeプレーヤーは、メディアファイル内のNCLCを反映する仕様に変更になっています。この仕組みが我々制作者の期待通りに動いていないようです。Premiere Proとしては、書き出したファイルに保存されているRGB値は正確なのですが、NCLCデータの書き込み結果を反映したプレーヤーによってはカラーシフトが起きているのです。
どうすれば良いか?
ここからは、対策について私のアイディアを書きます。もうPremiere Proを使わずにDaVinci Resolveを使ってください。というのはあまりにも私の押し付けがましい選択肢ですし、現実的ではありません。世の中ではPremiere Proのユーザー割合が最も多いので(勝手なyamaq体感調査による)、もう少し現実的な対策を紹介します。
Premiere ProからはNCLC以外は問題ないので、何らかの方法でNCLCを変更したファイルを作り上げれば問題は解決するように思います。メタデータだけを変更する方法はBBCが開発したツールはあるのですが、あまり気持ちの良い解決策ではないと私は感じたので、ここでもDaVinci Resolveを使うことにします。Premiere Proから書き出したファイルを、DaVinci Resolveに読み込んで一般的なRec709形式として出力することで今回の問題は解決できます。
このように聞くと、DaVinci Resolveでの書き出しによって再エンコードが加わり、厳密には品質劣化が起きてしまうのは困る。そう考える方の思考は素敵です。私も同感です。しかし、心配はご無用でDaVinci Resolveはとても賢いのです。Premiere Proから書き出した例えばProRes422HQ形式と同じコーデックを指定して出力すれば、再エンコードはバイパスする仕組みがあります。これはオーディオも同様です。ですので、映像と音声のコーデックさえDaVinci Resolveで合わせておけば、再エンコードの劣化なくエンコード時間も短縮できます。もちろんこの作業はDaVinci Resolveの無料版でも可能です。
最後に
久しぶりにPremiere Proで検証をしましたが、書き出し時のオプションで「カラースペースを書き出し」という項目が増えていました。いつの時点からかは未知なのですが、少しずつではありますが色に対する取り組みも進化はしているようです。ただ現状ではPremiere Proは「Rec709専用」と言わざるを得ないでしょう。HDRのオプションもあるにはありますが、これでは満足できるとは言えないと私は感じました。今回検証した環境は下記のとおりですが、この記事を読まれた未来の方にはその際の環境によっては再現できない部分も想定されますので、その点はご注意ください。
2020年8月28日現在
・macOS10.15.6 Catalina
・Adobe Premiere Pro 14.3.2(CC2020)
・DaVinci Resolve 16.2.6
・EIZO ColorEdge CG318
ピンバック: Premiere Proの色について|実践 – yamaqblog